7.債務不履行責任
■1、概要
不法行為が特定の契約関係の有無にかかわらず、広く誰とでの間にも生じうるのに対して、債務不履行責任は、契約(契約書面の有無を問いません。)関係にある者の間に限って生じる点に特徴があります。

■2、債務不履行責任(民法415条)
債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債務者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったときも、同様とする。(民法415条)
1、契約上、ある人が別のある人に対してある行為をする、またはしない義務を負っている場合があり、この義務のことを債務といいます。
例えば、Xが養鶏業者であるYから鶏を買うというケースを考えると、これは民法上は売買契約(555条)であり、XはYに対して代金を支払うという債務を、YはXに対して鶏を引き渡すという債務を負っています。
債務不履行とは、債務者が債務の本旨に従った債務の履行をしないことをいい、法律の規定・契約の趣旨、取引慣行・信義誠実の原則等に照らしてみて適当な履行をしないことをいいます。

2、債務不履行責任の種類
一般的に債務不履行には、履行遅滞・履行不能・不完全履行の3種類があります。
a.履行遅滞
債務者が債務を履行できるにもかかわらず履行期になっても履行しないこと。
b.履行不能
契約締結時には履行可能であった債務が債務者の責に帰すべき事由により履行が不可能になったこと。
c.不完全履行
一応の履行はなされたがその内容が債務の本旨に適さない不完全なものであること。
このうち賠償責任保険の分野で問題になりやすいのは、不完全履行により対人・対物事故といった拡大損害を生じた場合です。
鶏の売買契約の例で、YからXに引き渡された鶏が、Yの衛生管理が不十分で病気にかかっており数日後に死んでしまったという場合は、不完全履行にあたります。そして、Xがもともと所有していた他の鶏が、Yから購入した鶏の病気に感染して死んでしまった場合は、不完全履行により拡大損害が生じたということになります。
Yに過失があったときは、XはYに対して拡大損害についても債務不履行に基づく損害賠償を請求することができます。



■3、債務不履行責任と不法行為責任の差異
債務不履行と不法行為責任は、時効、立証責任、過失相殺などの点で相違があります。

■4、請求権競合
例えば、レンタルCDを借りていた人がそのCDを過って割ってしまった場合、これをレンタル店の所有権への侵害行為とみれば不法行為責任となり、これを賃貸借契約上の目的物返還義務違反とみれば債務不履行責任となります。このように、1つの行為が債務不履行責任と不法行為責任の両方を満たす場合がありますが、この場合は、どちらの請求権を行使してもよいとされています。
8.損害担保契約
1、当事者間であらかじめ損害賠償に関する契約を結んでいる場合があり、これに基づいて損害賠償責任が発生することがあります。
例として、販売店と卸業者の間で「卸業者は毎月1日に製品20ケースを販売店に納入するものとする。もし遅滞すれば卸業者は1日につき1万円支払う。」という約定を結ぶといったように、当事者が予め損害賠償の額を約定している場合があります。これを「賠償額の予定(420条)」といいます。

2、損害担保契約に基づく賠償責任について、その契約により加重された責任(その契約がなかったならば法律上負担することのなかったであろう賠償責任)は、賠償責任保険普通保険約款によって補償対象外としています。