4.不法行為に関する民法の規定…特殊不法行為責任(714条〜719条)
1、責任無能力者の監督者の責任(714条
民法714条第1項は、自分の行為の良し悪しを判断する力のないような未成年者や心神喪失者が他人に損害を与えても、その者は、その損害を賠償する責任を負いませんが、その代わり、親や後見人のように、その責任無能力者を監督すべき法律上の義務のある者(法定の監督義務者)が、その損害を賠償する責任を負わなくてはならない旨を規定しています。
また、同条第2項では、幼稚園の園長、教諭、小学校の学校長、教員、精神病院の院長・医師などのように、親や後見人にかわって監督する義務のある者(代理監督者)も同様の責任を負う旨を規定しています。
監督義務者は、自分が義務を怠らなかったことを証明すれば責任を負いませんが、法定監督義務者は、当該行為についてのみではなく、広く責任無能力者の生活全般にわたってこれを監督する義務があるとされているので、実際上、監督者の過失がなかったことを立証するのはきわめて困難であり、判例上でも、この免責事由が認められた例はほとんどありません。

2、 使用者責任
民法715条は、使用者(事業主等)は、被用者(従業員等)が事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う旨を規定しています。使用者に代わって事業の監督をする者も,同様の責任を負います。
ただし、使用者が被用者の選任および事業の監督に相当の注意を払った場合や、相当の注意を払っても損害が生じたと認められる場合は、責任を負いません。
なお、被用者自身も、一般の不法行為責任(民法709条)を負うので、使用者・監督者が被用者に対して求償権を行使することができる場合もあります(ただし、求償権の行使は制限すべきであるというのが判例の立場です)。
:被用者について一般の不法行為が成立していることが、使用者責任を認めるための前提条件となります。

3、 注文者の責任
仕事の注文者は、注文または指図について過失があるときは、請負人が第三者に与えた損害を賠償する責任を負います。
請負人は、自己の裁量により仕事を遂行するものですから、「被用者」には該当しないということと、注文者の行為と損害の間に因果関係があれば責任が生じる(つまり709条の一般的不法行為責任と同質)ということを注意的に規定したものと解されています。

4、工作物責任
土地の工作物の設置または保存に瑕疵(欠陥)があり、これによって他人に損害が生じたときは、「占有者」は被害者に対して損害賠償責任を負います。占有者が注意義務を果たしている場合は、「所有者」が責任を負います。
「瑕疵」というのは、その工作物が本来そなえていなければならない安全な性質または設備を欠いていることをいいます。例えば、ガスタンクに亀裂が入っているような場合です。瑕疵は、客観的に存在していれば足りるのであって、占有者または所有者の過失によって瑕疵が生じたことは必要としません。したがって建売業者の手抜き工事によってはじめから建物に瑕疵があった場合や、以前の所有者や占有者の管理が悪くて瑕疵が生じた建物を買い受けたところ壁が落ちて通行人にケガをさせたような場合にも、占有者・所有者は、責任を負わなければなりません。

5、動物の占有者の責任(718条
動物の加害行為(例えば、犬がかみつくような場合)については、その占有者または管理者が責任を負います。所有者であるということだけでは責任を負いません。所有者自らが占有者である場合には、占有者として責任を負います。占有者や管理者は、管理上の過失がなかったことを立証できたときだけ責任を免れます。

6、共同不法行為(719条)
何人かの集団で他人を殴ってケガをさせるというように、数人が共同して不法行為を行って他人に損害を与えたときは、全員が連帯して責任を負い、その損害を賠償しなくてはなりません。また、暗闇の中で数人がそれぞれ石を投げて、その中の1つが他人の家の窓に当たってガラスを割ったが、一体誰が直接その損害を加えたのか不明なときのように、共同不法行為者の誰が加害行為を行ったのか知ることができない場合にも、共同行為者全員が連帯して責任を負います。
不法行為をするようにそそのかした者(教唆者)や、不法行為を援助した者(幇助者)も、共同不法行為者とみなされ、直接の不法行為者と連帯して損害賠償責任を負います。